Anata Omaeda

Jan 20

ドトールで待っているから、とゆうじんは、いった。

ドトールで待っているのか、とわたしはおもいながら、ドトールにむかった。

わたしもいつかドトールでだれかを待ちたいな、と、ふと、おもった。

そして世界でいちばんのぶっちょうづらをして、そのひとを、待とう。

怒った顔をして、カフェラテをのんでいよう。あちいばかやろう、とおおげさなリアクションもしよう。

くそったれちくしょうめといわんばかりのいきおいで、しかし思いのほかやさしいかんじで

ミルクレープをくちにはこぼう。

そんなことをかんがえながら、わたしはドトールへ、むかった。

とちゅうで空をみあげるのをわすれたので、空をみあげた。

ゆきが、ふっていた。ゆきだな、とわたしはおもった。

次の人生では、雪降る空にむかってりょうてをかざし、わらいながら、ぐるぐるまわろうと、おもった。そのときは、きっと、わたしは、こいを、している。

でも、いまのわたしはわたしでしか、ない。雪には、なんの思い出も、ない。スリップして、車ごと、実家の犬小屋につっこんだことがせいぜいの、いやあらんかぎりのわたしの雪にかんする人生の想い出である。わたしは前面が多少ぼこぼこになった車から、これぐらいなんでもないんだというかんじで紳士的に降りたつと、ひどく警戒し、わたしをじっとよそもののようにみすえるベスにむかって、ひとこと、いった。やあ、ぼくだよ。

ドトールにはいっていくと、ゆうじんが、ひっそりと、そこに、息づくようにして、待っていた。

まるで根づいているように、そこにいた。

ひょっとして根づいているんじゃないか、とおもって、あしもとをみたぐらいだった。

ゆうじんは、かつてのベスのように、そんなわたしを警戒した。なんなの、と。

いや、百年前からきみがここにすわっているようにみえたから、とわたしはゆうじんにいった。

そうしてふいに、なぜいつも百年なんだ、九十九年じゃだめなのか、百三年じゃだめなのか、と、

ひとり、おもった。

ゆうじんは、じっとだまってすわっていた。わたしは、ここで咲くのだ、いや、咲いたのだ、といわんばかりに。

ここではいくつものつぼみが実をなし、はなひらき、肉厚の花弁をぼたぼたとおとしていったのだ。

わたしは、そんなふうに、おもった。

なにか飲む? とゆうじんがいったので、わたしは、とにかく名前が甘い飲みものがいいね、といった。

そう、とゆうじんはいい、たちあがった。そうして、しばらくして、もどってきた。

はい、ハニーカフェ・オレ、とゆうじんはいった。おどろいた! たしかに甘い名前だ、とわたしはもろてをかざしていった。そうして、つぎにうまれてくるときは、ハニーって名前がじぶんのどこかにはいるといいな、と、いった。調子にのったのである。それをきいて、ゆうじんは、ためいきをついた。状況はハニーではないわけだ、と、わたしは、おもった。

じぶんをおちつかせようと、または落ち着いた雰囲気をかもしだそうと、わたしはハニーカフェ・オレを飲もうとした。が、わたしの手はがたがたとこまかく、ふるえた。

ゆうじんは、みてみぬふりをしていた。そうして、羽を休めるようにコーヒーをすすった。

もし百年前からここに、この場所に俺がずっとすわって息づいていたのなら、

俺だってもっとスマートにのみこなすことができるはずだよな、とわたしは、おもった。

でもそんな場所は、どこにも、なかった。

わたしがあたかも百年いたかのようにかもしだせる場所なんて、どこにもなかったし、ひとつとしてうみだすことのできないまま、ここまで、いきてきていた。ここまで、ほうほうのていで這いずるようにやってきて、そうして、わたしは、いまここで、ハニーカフェ・オレをのんでいた。そして、また、ほうほうのていでどこかにむかっていくのだ。ハニーカフェ・オレをとおりすぎて。

わたしは、ぼんやりと、ゆうじんを、みた。

ゆうじんも、ひどく、ぼんやりとしていた。わたしになにかいおうとするのだが、なにもいいださずに、いた。

そのとき、わたしは、ティーカップのなかに、ちらっとさざなみを、みた。それはこちらにむかっているように、みえた。

わたしは、もっとよくみようとして、のぞきこもうとした。なにかが、がぶがぶとしずみこんでいくのが、わかった。

それから、わたしは、しだいにぽつぽつとはなしはじめたゆうじんのはなしを、きいた。ゆうじんは、お気に入りの服をたたむように、しずかに、おりめただしく、はなした。まるでひとつの巨大な雪だまをゆっくりととかすような、そんな語り方で、ゆうじんはわたしにことのしさいを、かたった。

わたしは、うなずきもせず、あいづちもうたず、ただただ、じっと、カップのなかのあれくるう波をみていた。それはこちらがわにも、じきに、やってくるようだった。それはもうすぐだ、とわたしは、おもった。

百年前からわたしもここにすわっていたんだね。|いつだって最終回